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一般財団法人ジャパン・マザーミッション機構
角田頼重

母が眼鏡を掛けている。
おかしい。明らかにおかしい。

そもそも眼鏡を掛けている姿をここ十数年見ていない。
それに、その厚めでゴツゴツの四角いデザイン。

一応、聞いてみる。
「なんでその眼鏡買ったの?」

母曰く、「これで泥棒を捕まえる」とのこと。

よくよく見てみると、
眼鏡のフレーム部分に
小型のカメラが内臓されている。

更には、パソコンに繋げるための
USBポートも付いていた。

つまり、写真を撮ったり
録画が出来る特殊眼鏡だったのだ。
母は、スパイにでもなるつもりだろうか。

しかし、盗聴器の時も
その機器を扱えなかったのに、
またハイテクな物を選んできたなと。

そして案の定、
私が使い方を説明する事になる。
しかも今回は、更に難易度が上がる。

撮影の開始や終了を
ボタン操作によって行うため、
眼鏡に付いているボタンを
随時押す必要がある。

ボタンを押すとフレームの一部が赤や青で点灯。
その色で撮影状態が分かる様になっている。

しかし、ボタンを押す度に眼鏡を外して
点灯状態を確認するのはおかしい。
基本的には操作を覚えるしかない。

母は認知症だが、仮に操作を覚えられたとしよう。

私は母に聞いた。
そのカメラ付き眼鏡を掛けて、
泥棒と思われる人の目の前に立って、
眼鏡をポチポチ押す気なの?

母曰く、「そうだよ。それで捕まえるの!」と。

ついでに、
泥棒がどこにいるのか聞いてみると、
お風呂屋さんとの事。

母が好きなスーパー銭湯があるのだが、
そこでお婆さんが人の荷物を盗んでいくらしい。

女性脱衣所の事なので、
流石に確認が出来ない。
そのため、母の言う事が
本当かどうかは分からない。

例えば、
認知機能が衰えた老人が他にいて、
同じスーパー銭湯に通っていても別におかしくはない。

自分のロッカーを間違えたのか。
実際に盗み癖のある老人なのか。

相手の状態がどちらだったにしても
母に対してこれだけは言える。

これからお風呂に入るのに、
裸で眼鏡を掛けていたら怪しすぎる。

しかも、フレームを押したり、
その一部が点滅したりするのだ。

そして、母は直ぐに録画をするために、
脱衣所を通り越して、眼鏡を掛けたまま
浴場に行こうと考えていたのだ。

これは、全力で止めさせて頂きました。

全裸で隠しカメラの付いた眼鏡を掛けている。

誰が見ても明らかに母の方が不審者だ。
自分がどんな状態になっているのか
全く想像が出来ていない。

こっちは警察に迎えに行く所まで想像出来ているのに。

不信行動だけならば
まだ何とかなるかもしれない。
心配なのは相手が怒って暴力沙汰になる事だ。

相手に怪我をさせる事は無いと思うが、
母が怪我をして寝たきりにでもなったら、

・・・想像するだけで吐気がする。

私が止めた事で実際に問題は起きなったが、
いずれ問題が起こる事を恐れながら、
私は協力する事を止めた。

その後、私が手伝わなくなった事もあり、
その特殊眼鏡の充電方法が分からない母は、
次第に使わなくなっていった。

そして、眼鏡の存在を忘れた。